農業は、狩猟することから解放され、定住することから始まります。日本が稲作を始めたのは有史以前のことで、水と光と環境が調和して収穫に結びついたからです。以来どのような時代であっても農業が優先されてきました。四大文明に於いても農業は重要な産業でしたが、使い捨て文化であり、川の氾濫に頼ったり、耕作地を移動してゆくものでした。森の伐採にも同様のことが言えて文明が栄えた場所は砂漠化しているのが現実です。日本に於いても環境を破壊して農業を行いましたが、他との違いは里山感覚が発達して、森も畑も手入れを必ず行いました。自然と人が共存してきましたので使い捨て文化にはなりませんでした。そのことが日本農業の文化となり循環型社会構造は農業から構築されました。「いただきます」は神事の礼に習い、私が生きて行くため野菜や野獣の命をいただきますからで、縄文時代から日本社会は循環型でした。徳川幕府が構築した武蔵野森林は世界の逆で創生です。現在は耕作放棄地や里山保全が放棄され、竹が侵入して「竹害」として問題になっています。



 
日本の農業は独自の発展を遂げ、世界中のどこのエリアにも負けない栽培感性を作り上げました。それは世界第5位の農業大国(売上ベース)に発展しました。施設栽培や果樹の専門栽培は四季に対応した感性と科学的データに基づく研究の成果で常に世界のトップレベルを維持し、特に味に関する拘りは世界から研修に来日する農家の多さが物語ってします。1割を切る専門農家が売上の大部分を上げ、尚更専門家がすすんでいますが、近年ファーマーズマーケットの出現で現役を引退した専門農家や転職した拘り農家が売上を伸ばしています。栄養価に拘った養液土耕栽培でヒットした「フルーツトマト」のような農産物が好評を得て世界に向け新しいジャンヌの開発も進んでいます。欧米が提案するカロリーのない野菜をファーストフードに販売する野菜工場も一つの方向ではありますが日本農業は栄養価や色、味に拘ったホンモノを栽培し、世界に発信することを農業の本質として農家が発展してゆきます。

栽培感性は江戸時代から養われてきました。その主な内容は品種改良や種苗に対する考え方です。江戸時代ユリが流行して現在に伝わっていない品種の絵が沢山存在したり、各エリアに一子相伝で受け継がれた品種が存在してその文化になっていたりします。和泉エリアの水ナスや京野菜の賀茂ナス等々多くの野菜類が存在します。冷蔵庫のない時代、保存には工夫が施され漬け物や干して乾燥させたりと言った名物が多く完成しました。生活全般に及ぶ創意工夫が日本民族の文化であり、現在の先端技術に通じるその精神が農業にも活かされてきました。プロ農家は今なお常に発展していまして、温度の壁や栽培における味、咲く花の発色等々に拘り、日々創意工夫を怠っていません。



 
人類が農業を行うようになって以来、肥料を撒いたのではなく栽培に適した場所に移動していました。定住するようになり落ち葉や雑草を刈って畑に敷きました。日本は湿度が高く有機物の分解が早いので、山の手入れ残渣や刈草が使用されました。どこのエリアでも人口の増大が農業に大きな影響を及ぼし、効率や方法が発展しました。日本の江戸時代が世界に先駆けて農業の効率が上がり、大阪エリアで商人や武家で菜種ランプが使用され「菜種油滓」が肥料になりました。また江戸では人糞尿が肥料になり、食生活や衣料の染めに使用される藍の栽培に使用されました。イギリスで発展した三圃式農業は四つ足の肥え車として牛が活躍しますが、低温と分解が遅い植物によるところが強く、牛の内臓で分解をすすめて肥料化することが特徴となりました。イギリスでは次ぎに動物の骨を硫酸で処理して過リン酸石灰を製造するようになりました。その当時火薬の原材料にしていた草木灰や硝石等も使用されるようになりました。肥料の時代が大きく動いたのは、ドイツのBASF社が空気中の窒素を固定してアンモニアの生産に成功したときからで、肥料にも火薬にもなりました。日本でも同様の技術を住友化学と多木化学が行って肥料を製造するようになりました。戦後は世界的に工業が急成長して、多くの産業廃棄物を生むようになり、日本はそれらを硫安等の肥料に加工して農業分野にリサイクルしました。石油系の肥料は、それまでの野菜と大きな差を生むことになりました。栄養価の少ない野菜が栽培されるようになり、最近問題化されてきました。文明の発展を担った工業のツケを農業で払った形になり、有機農法や減農薬、減化学肥料の農法が求められるようになりました。栽培履歴やポジティブリストの掲示等の要求に応える農業が求められるようになりました。



 
たばこのニコチンに似せた農薬はネオニコチノイド系農薬と呼ばれ残効性が高く近年多く使用されてきました。しかし蜜蜂等の受粉する昆虫類を死滅させ、また水溶性浸透農薬であるため人に影響することが判りました。欧米等では使用禁止にして対策が実行されていますが、日本では変わりなく使用されています。農産物の輸出を行うに当たり、輸入国の基準に合わずに廃棄されることも発生しています。今までの農薬は水で洗い流せましたが、この農薬は皮膚に浸透して水で洗い流すことができず人体に残留いたします。栽培に便利な資材としての農薬と人体に影響を及ぼす内容を検証することが必要になりました。化学肥料も石油系のものは強酸に溶けている状態で販売されていますので、作物の根が酸で焼かれ非常に少なくなり、イオン交換で欲しいときに欲しいだけ吸収することではなく強制的に酸で押し込むような吸収となります。それは本来持っている栄養価を下げてしまいました。家庭菜園農家は上記のような危険性が高く栄養価のない野菜や果実を食べたくないと思う強い意識から、自身で野菜を栽培するようになりました。当然有機物で完成した天然の肥料や資材を求め、できれば農薬や化学肥料は使用せずに栽培を行います。有機質でも熟成が進んでいないものや化学物質を分解し切れていない資材は使用したくないのですが、知識と経験がないので、資材を探している状態です。抗生物質やホルモン剤、遺伝子組み換え微生物や酵素は、有機物のなかに紛れている可能性がありますので、明確な情報が必要です。プロ農家の課題は、解り易く消費者に安全で栄養価の高い野菜を届けることで、グローバルGAPのようなシステムや栄養価の分析が必要となります。有機資材で土造りを行い、作物の必要な分の栄養分を有機肥料や高性能液肥で提供して、余分や肥料成分で病害虫の被害に遭わない農法が今後求められています。